豊田市で生後11か月の多胎、つまり三つ子ちゃんの母が、次男を落として死亡させた事件の裁判。
各社の報道によると2019年3月15日に判決が出ました。
「懲役3年6か月」。
はたして、この刑は妥当なのでしょうか?本当に、それは彼女一人が背負わなければならないことだったのしょうか?
冷静に、彼女個人の問題なのでしょうか?
背景を考えていきましょう。
最後に、あなたはどう感じるでしょうか?
双子 三つ子 多胎児育児 睡眠時間1時間は親の判断力を奪う
睡眠時間がわずか1時間…まず、あなたはこの生活を想像できるでしょうか?
「睡眠をとらせない」は拷問の一つの手段でもあるんです。
みつごちゃん、
はじめての育児で1日8回のミルク授乳を3人分。
赤ちゃんは3時間ごとにミルクを欲します。
ミルクを作って飲ませてげっぷさせて落ち着かせるまでに
初めて育児の場合は、たいてい1回に30分~1時間ほどかかります。
加えて、おむつ替えもありますね。
それを3人分。
3人がいっぺんに眠る時間なんて、奇跡と同じくらいの時間でしょう。
3時間おきに1時間必要な作業が3人分。
つまり、24時間、暇がない状態です…。
これを、ワンオペ育児で行うという状況を想像できるでしょうか?
寝る時間、ないじゃないですか。
5か月も3つ子をワンオペで…その壮絶さは想像を超えています。
想像を超えた過酷な生活を、この女性は、続けておられたわけです。
重度のうつ病になっていたそうですが、
逆にいえば、うつ症状の中でも、
何か月も頑張って頑張って、3人の命を保ってきたのです。
朝日新聞の報道によれば、女性の夫は半年間の育児休暇を取ったけれど、頼りにならず、女性も次第に頼らなくなったとのこと。さらに、事件は、夫の育休明けから5か月の生後11か月に発生しました。
もちろん、命を奪ったことはこの女性自身がすでに自分を責め続けているわけです。わたしが言うことはありません。
「その日」まで女性が懸命に懸命に3人の命を保つことに頑張った事実の方をみたい、そう思います。
彼女だけに責任があったのだろうか?
この事件には、多胎育児をめぐって、全国の自治体が直視しなければならない、3つの大きな事実があります。
①女性はきちんと「「SOS」を行政に発していたのに行政の対処がなかった
➁豊田市は、ほかの自治体に比べて多胎児が多い
③保健師は「長男次男の口をふさいだ」という女性の言葉を聞いていた
三つ子事件、豊田市の保健師は「虐待」の可能性を理解しても、なぜ動かなかったのか?
保健師は女性の家を複数訪問し、女性の話を聞いています。
「長男次男の口をふさいだ」と告白もしています。
この衝撃的な発言は、女性自身も話すときにかなりの勇気を必要としたのではないかと察します。
けれど、保健師は緊急の対応をするまでには至りませんでした。もしかしたら、そうした発言になれすぎていたのでしょうか?
双子・三つ子、多胎の数は都道府県によって大きく異なる
NHKの報道によれば、愛知県はほかの都道府県に比較しても、多胎児が多いとのこと。
事件のあった愛知県は、過去20年、一貫して全国平均を上回っています。
他県に比べて、支援の必要な多胎児育児中の家庭は多かったのです。
つまり自治体としても、手厚い体制が求められていました。
事件後、豊田市は多胎育児への対策を手厚くしました。
もう少し早ければ、女性は、女性の赤ちゃんは救われていたのではないだろうか…?と思うと胸が締め付けられます。
ほとんど知られていませんが、
総出産数にしめる多胎の出産は、実は自治体によって大きく異なるのです。
2017年で言えば、
最も多い新潟県と、最も少ない福島県では、その割合は2倍も違います。
(1995年~2017年確定分の厚労省のデータを基にした一般社団法人多胎支援協会のグラフ参照)
その背景を見ていきましょう。
女性のおかれた環境は、女性一人の問題ではなかったということが見えてきます。
多胎出産に大きく影響する不妊治療の複数胚移植。「原則禁止」にはなったが…
2008年、日本産婦人科学会は「移植する胚は原則1つ」と定めました。
母体・胎児への多胎妊娠のリスクが高いためです。
ただ、35歳以上で複数回の移植でも着床がなかった場合など一定の条件下では認めています。
1つ目の胚で着床しやすい環境を作り、さらに追加で移植する「二段階移植」という移植法もあります。この場合は1つ目の移植もうまくいくと、双子以上になる率がかなり高まります。
「移植する胚は原則1つ」とは定めたものの、結果として多胎妊娠の数が維持されるのはこの二段階移植が研究・実施されているからです。
しかし、通常の妊娠よりも難しい場合、圧倒的に妊娠率を高める方法。今後もこの治療が必要なのは言うまでもない事実です。
非常に興味深いことに、都道府県によって総出産数の中に占める多胎児出産の割合は大きく異なります。
多胎児のお産の割合が多いのは、
栃木、群馬、新潟、滋賀、徳島、愛知、高知、島根、鹿児島、沖縄です。
繰り返しますが2017年で言えば、
最も多い新潟県と、最も少ない福島県では、その割合は2倍も違います。
不妊治療治療の方針転換を理解していくべき
多胎支援協会のグラフは、その年年によって、大きく多胎出産の割合が大きく変化することを示しています。
あなたの住む都道府県がどんな状態にあるか、ぜひ見てください。
不妊治療施設が、どのような方針で治療を行ってきたか?
これから、どのような方針にする予定なのか?
治療施設が限られる地域では、1つの施設の方針がその都道府県の多胎出産の割合に大きく影響することがわかるでしょう。
不妊治療施設の役割はもちろん、単に「妊娠を無事成立させる」だけではありませんよね。妊娠のその先の支援に、自らの治療方針が影響することも理解してほしいと思います。
医療者側は、治療の方針を変える場合などに、自治体の多胎児支援の政策立案担当者と、コミュニケーションをとる場が必要ではないだろうかと思うのです。
豊田市の三つ子事件は、氷山の一角。全国の自治体 多胎育児支援と不妊治療施設連携への警鐘
多胎児の出産数に対する割合は、不妊治療施設の治療方針に影響をうけます。
彼女がいた愛知県は、過去20年、一貫して多胎児が多い。
多胎児への支援が他県に比べて必要だったのに、手薄になった結果ではなかったか?というとらえ方もできるのです。
ワンオペで3人の乳児のお世話に追われ、
睡眠時間1時間で、重度のうつ病だった彼女。
個人の責任問題だったと断定できるでしょうか?
同じ問題は、多胎の出産数の多い全国の自治体にもあるかもしれないのです。
多胎児の割合、そして不妊治療施設の方針、両方を鑑みて、
愛知県以上に、逼迫した自治体はたくさんあるはずです。
豊田市の事件は、氷山の一角でしかないのです。