新型コロナの感染者数が急増する中、
小さな赤ちゃんを育てていると、不安ですね。
特に、赤ちゃんへの「授乳」をどうしたらいいか悩みます。
新型コロナウイルスに感染していても、症状がない人も一定数います。
なんの症状がなくても、
「自分自身が症状のないまま、授乳で赤ちゃんに感染させていたら…?」
「自分自身、ちょっと喉が痛いかも…」となったら、さらに不安。
熱もないし、外出もしていないから、PCR検査に行くほどではない。
そんな時。
あなたはどうしますか?
実は、感染者の授乳については、
WHOの見解と日本の学会の見解が必ずしも一致していません。
そして小児関係の学会と、国内で母乳を推進している専門家団体とも、意見が分かれます。
だけど、この不一致に一番、困っているのは、
「無症状のまま授乳していたら?」という大多数の不安を抱えているお母さんたちではないでしょうか?
知らない間に自分が感染していたら?
赤ちゃんはどうなるの?
びくびくしながら、母乳をあげるかどうか迷っているお母さんのために書きました。
<このページを書いているのは…>
当ブログの筆者は、そんな情報の俯瞰が専門の科学ジャーナリストなかむら。かつ、4人を混合と、完全母乳で育てた経験を持ちます。コロナ禍で必死に頑張るお母さんたちのために、メディアに散逸するコロナと育児の関係の情報・研究を追っています。<このページを読むと…>
各機関の見解、違いを分かりやすく分析しました。授乳でヘトヘトな方は、まずはまとめだけ読んで自分の心に聞いてみてください。授乳中は目が疲れやすいですからね。余裕があるときだけ全文を読んでみて下さい。<結論>
母乳にウイルスが移行しているという事実はいまだ確認されていません。
WHOは「感染していても母乳はあげましょう。ウイルスに感染するリスクよりも、母乳のメリットははるかに高いのです」。
日本の学会は「感染者は陰性になるまで人工乳か、搾母乳を」。ただしこれは、感染者のみの表現にとどまります。感染していない人についてまでは語っていません。「感染しているお母さんの授乳」で、この判断です。
では、感染が確認されていないあなたは、どちらを選びますか?
決める権利があるのは、あなたです。
では、情報を詳しく見ていきましょう。
俯瞰した後に、あなたが自分の心に聞いて、決められますように。
新型コロナ禍に授乳するか問題。判断分かれる各専門機関の情報
<目次>
「和歌山県で感染者の母乳が陽性だった」という報道
新型コロナの日本の学界の現状
WHOの現状
国内の母乳推進団体の見解
国立小児生育センターの見解
あなたの気持ちはまとめ
母乳にコロナウイルスという報道
感染者の母乳、PCR検査1回目で陽性、2回目は陰性
7月、和歌山県の20代の女性の母乳をPCR検査したところ、陽性だったという報道が話題をさらいました。
この女性は4月に感染が確認され、赤ちゃんに母乳を上げたいという希望で母乳PCR検査したそうです。検査は2回。
1回目が陽性。
2日後に実施した2回目は陰性だったといいます。
各報道によると、このご家族は、赤ちゃん自身も感染していたと言うことです。
ただし、「母乳」にウイルスがいたのか?
実はこれは、はっきりしていません。
・検査用の母乳を搾乳している間に入り込んだのではないか。
・この方は乳腺炎だったので、乳腺炎が原因で母乳に入り込んだのではないか…?という様々な憶測も飛んでいます。
この憶測も憶測の域を超えません。
毎日新聞の報道によると、和歌山県はこの陽性の結果を受けて、「感染中の母親は、母乳を赤ちゃんに与えないよう通知する」という方針を固めたとのことでした。
「母乳から感染する可能性を否定できない」というのが理由です。
ただ、このご家族、20代の女性=妻よりも、夫の方が先に感染していたらしく…実際に赤ちゃんが母乳から感染したのかは、明らかではありません。
母乳からの感染ではなく、お世話をする中でお父さんやお母さんの手についていたウイルスが赤ちゃんの口や目にたまたま入ったということも考えられます。
「1人の母乳から、2回のうち1回、陽性反応が出た」だから「感染者は母乳を与えるべきではない」と捉えるのが普通かどうか?それは人ぞれぞれ、考え方が異なるでしょう。
参考:「新型コロナ感染の母親の母乳 PCR検査で陽性の結果 和歌山県2020年7月10日 6時36分」新型コロナ感染の母親の母乳 PCR検査で陽性の結果 和歌山県
「新型コロナ 母乳から陽性反応 県、授乳の「見解」通知へ /和歌山」(毎日新聞)
感染者が母乳を与えるべきかどうか?WHOの見解は
「母乳は感染リスクを比較考慮してもメリット高い」と考えるWHO
WHOの見解は、とてもシンプルです。
「感染している妊婦が出産するときも、ぜひ、赤ちゃんには母乳を与えてほしい。感染のリスクと、母乳のメリット、比較しても母乳のメリットの方が大きい」
もともと母乳育児を世界中で推進しているWHO。
母乳が母子関係に与える影響の大きさ、母乳の衛生・栄養の素晴らしさについては、
組織としても、たぶんガイドライン作成に関わっている専門家の皆様も、深く深く、認識していらっしゃることでしょう。
だからこそ、WHOは、テオドス事務局長含め、繰り返し、会見などで 「感染している妊婦が出産するときも、ぜひ、赤ちゃんには母乳を与えてほしい」と伝えています。
わざわざ会見で時間を取って、丁寧に説明しています。
さらにWHOは「新型コロナに感染している女性は、本人が望むのであれば、母乳をあげることができます」というパンフレットも作っています。
なぜ、WHOは、このコロナ禍でも、断固として、母乳育児を推すのでしょうか?
それは、
母乳を与えることが赤ちゃんと母親の絆を深めること、
母乳に含まれる免疫系を高める物質が、赤ちゃんの健康を支えることなどが大きな理由です。
母乳を与える際のホルモンや、母乳内の物質をWHOは重要視
母乳を与えるときに母親の脳などに大量に分泌される「オキシトシン」というホルモン。
その時触れ合う母子の絆を強力に深める作用を持っています。
母乳育児を産科医や助産師さんが強く勧めるのは、この「母子の絆を深めてもらいたい」という強い願いからです。
オキシトシンをよりよく分泌している状況と、分泌していない状況、または感受性の高い状況と低い状況では、母親も父親も、赤ちゃんのことを「愛おしい」と思う心の状態が違います。
なお、余談ではありますがWHOは「感染している女性は、新生児と皮膚接触(※)したり、母乳を与えたり、母子同室にしたりするためのサポートを与えられるべきです」というパンフも作っています。https://www.who.int/reproductivehealth/publications/emergencies/Pregnancy-4-1200×1200.png?ua=1
これは、皮膚の接触など物理的な母子の接触がオキシトシンの分泌効果を高めるためです。皮膚接触の有無で、母子のその後の関係が変わるという研究は数多くあります。
ざっくり表現するとWHOの立場は「本当言うと、絶対、母乳勧めたい。だけど、どのように選択するか?は、その女性個人の思いが反映されるべき」という立場ということでしょうか。
たとえ母乳からの感染でなくても、日々のお世話で感染する可能性大
なお、WHOや米国疾病対策センター(CDC)が新生児からの母乳を与えることを推奨するのは、「たとえ入院中に母乳を与えていなくても、帰宅後に世話をする中で感染する可能性が高い」という点も考慮に含まれているようです。
それは確かにそうです。
母乳を与えていなくても、親子で接触する機会が多すぎるのが赤ちゃんのお世話。
感染リスクはどうしても高くなりますね。
そして、何より、赤ちゃんは、感染したとしても、軽症に終わるようです。
これについては、関連記事をご参照ください。
かかっても軽い症状、そのために母子の絆や、赤ちゃんの免疫系を支える母乳を断ち切る理由は…ない、というのが、WHO、CDCをはじめとする母子の絆に重きを置く判断です。
感染リスクと母乳育児、日本の産科関連学会の見解
いっぽうで、日本国内の専門家の見解はどうでしょう?
「感染した妊婦さんの出産は(中略)、母乳にウイルスが含まれるという報告 もありますので、新生児は完全な人工栄養とし、母児双方とも PCR でウイルス が陰性となるまで母体との接触は避けてください」
日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会の3学会の連名です。
この表現が、出産直後の産婦だけではなく、乳幼児を母乳育児中の感染者全体にまで適応しているのかどうか、この文書だけではよく見えません。
ただ、新生児については母親がPCR検査で陰性が確認されるまでは母乳を与えないようです。
この点、WHOの方針とは逆行しています。
ただし、WHOの考えは、強制力がありませんので、各学会の方針に、学会員である産科婦人科医は従うことになります。
もちろん、医療者側は、「感染しているかもしれない人」が増えるリスクの方が大きいと考えるでしょう。これもまた医療を提供する立場としては納得のいく答えです。
いっぽうで…母乳育児を薦める、日本新生児育成医学会などは、声明を出しました。
「保健医療従事者が、母親の主体的な授乳の意思決定と気持ちを尊重した支援を行う原則は、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19と表記)流行下であっても変わりません」
お母さんに寄りそった情報を提供している国立成育医療研究センター
感染疑い、感染している、お母さん(症状が軽く、全身状態の良いお母さんに限定)に対して、母乳育児へのアドバイスが書かれています。
「感染予防を行ったうえで、授乳を継続するか、健康な誰かに搾母乳もしくは人工乳を上げてもらうことを相談してください」とあります。
つまり、「自分で決定してください」ということですね。
感染しているかも?不安だけど母乳を赤ちゃんにあげたい場合
WHOの見解と、国立成育医療センターの注意事項を合わせて書いています。
直に母乳を与える場合の注意点
・マスクをする(成育医療セ)
・授乳する前に手洗い(石鹸で20秒以上)成育医療セ
・乳輪周りを清浄綿などで消毒(成育医療セ)
搾乳する際の注意点
・マスク、(成育医療セ)
・哺乳瓶を触る際に手洗い(成育医療セ)
・乳輪周りを消毒(成育医療セ)
・自身専用の搾乳機を使用(成育医療セ)
マスクで母乳・ミルク・搾母乳を与える際の注意点
ここはシンプル育児研究所からの注意点です。
赤ちゃんは、母乳を飲みながら、お母さんを実はじっと見ています。お母さんの表情を見ながら、コミュニケーションをとろうとしています。この時のコミュニケーションは、赤ちゃんにとって実はとても大事なものなんです。オキシトシンがあなたの脳や胸に分泌されているのと同様に、赤ちゃんの体内にも分泌されています。赤ちゃんが、「あなたを大事に思っている」「あなたから安心をもらっている」と実感している時間なんです。
マスク越しでは、赤ちゃんはあなたの表情を読み取りにくくなります。
ですから、どうか一瞬でもいいので、目を合わせてニッコリ笑ってあげてください。
どうか一言でもいいので、「おいしいかな?」などかけてあげてください。
コロナ禍で緊張している中で母乳育児を続ける・続けないにかかわらず、あなたは必要以上の決断を迫られていると思います。
赤ちゃんが安心して育つ3年後の赤ちゃんの安心のために、
どうか、一言だけでもいいので、一瞬だけでもいいので、
赤ちゃんに微笑んであげてくださいね。
もしくは、あたまを撫でてあげて下さい。
マスクがあなたの口許を隠してしまっている、そのことを補うために。
まとめ
WHO、CDC、そして日本国内の母乳育児を薦める専門家団体は、「感染していても、母乳を与えてほしい」。「お母さん自身が決めてよい」としています。
いっぽうで、日本の産科婦人科医の各学会は、「感染している場合は、母乳は控えて」というメッセージを伝えています。
ただ、自宅にいて、感染しているかどうかわからないけれど、PCR検査に行くほどではない。だけど、「無症状でかかっていたら?母乳どうしよう…?」と迷われる方もいらっしゃるでしょう。
繰り返しますが、WHOは「感染していても母乳を与えてほしい」と言っています。
学会も「感染が確認されていない母親」までは踏み込んでいません。
ですから、母乳を与える与えないは、ご自身で決めていいんです。
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