突然の宣告
出生前診断。
この言葉を聞いたことあるママ・パパは多いかもしれません。胎児の染色体や遺伝子異常を調べる検査で、羊水検査などがよく知られています。
でも。あなたももしかしたら、妊婦検診で、知らない間に、出生前診断を受けていたかもしれません。
わたしもその一人です。1人目を妊娠して10週目、それは、ふいに、やってきました。
「うーん、ここの、むくみがちょっと大きいですねぇ」
医師はのんびりした声で、超音波画像に写った私の胎児の首をペン先で示しました。
「ダウン症などの可能性が大きくなるね」
求めてもいないのに勝手になされた「出生前診断」でした。
「まぁ確率の問題だし、通常は11~14週で診断するものだから分からないね」
そんな、ほんの数分のやりとりで、診察は終わりました。職業柄、出生前診断の問題点も知っていましたが、不意打ちを食らい、私は金魚のように、 口をパクパクさせるしかできませんでした。
自宅に戻り、泣いた私に、夫は言いました。
「何があってもせっかく2人のところに来てくれた、大事な子だからね」
望む・望まないの選択を
その後、私は夫の都合でドイツで半年間、妊婦生活を送ることになりますが、ドイツのクリニックでは初診の際に「出生前診断について」という文書をもらいました。
特にリスクの高まる35歳以上の妊婦には勧めているといい、医師からも直接、話がありました。
「診断はしない」と即答すると、ドイツの主治医は、その後も、この診断に言及することはありませんでした。
妊娠初期に胎児の首のむくみ(NT)を見る超音波検査は近年、画像診断技術が急速に高まり、普段の妊婦検診中に難なくできるようになりました。
イギリスの産科医が提案した検査で急速に広まったのですが、むくみがあると診断されても胎児に必ずしも障がいがあるとは確定しません。検査は単なる確率の問題で、実際は健常児で生まれてくる方が圧倒的に多いのです。
診断されても障がいの有無を詳しく調べるためには、さらに羊水検査などが必要です。
望まぬNT検査によって、不安をあおられた妊婦は、今までどのくらいいるでしょうか。
そして日本では?
ようやく2011年6月25日、日本産科婦人科学会は「NTを調べ、告知する場合は、妊婦への十分な説明と同意が必要」という指針を定め、発表しました(読売新聞2011年6月26日朝刊)。遅きに失す、です。
わたしが2人目を妊娠中のときも、頼んでもいないのに妊婦検診中に出生前診断を受けました。
やはり不意打ちでした。今回は「異常ありませんね」でしたが、ほっとしたような、悲しかったような、複雑な思いで診察室を後にしました。
医師には、勝手に診断する前に、やはり同意を求めてほしかったというのが率直な気持ちです。
もちろん、知りたい人もいるでしょうが、知りたくない人もいるのです。産科医療の発展は多くの母子の命を助けます。
けれど、私のところに来てくれた赤ちゃんのありのままを受け入れたい、そんな母親の気持ちも忘れてほしくはありません。